ティム・バーナーズ=リー卿記念講演会
今回は、標記の講演会に参加して、インターネットの経緯と現在と未来に関するお話がおもしろかったので、共有したいと思います。
ティム・バーナーズ=リー卿 慶應義塾大学名誉博士称号授与 記念講演会
http://www.sfc.keio.ac.jp/news/012017.html
日付:平成29年3月14日(火)13:00-14:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス
WWW(Wolrd Wide Web)の父と呼ばれる氏。詳しくはwikipediaなどでご確認を。
講演メモから––––––
◆インターネットとWWWの開発経緯とオリジナルの思想について◆
1969年、最初のTCPIPが出て、最初のパケットがインターネットを通過した。
今ではクラウドなどとも呼ばれているが、基本的な考えとしては、パケットをどこかに投げつければ勝手に、見えない形で処理してくれるのがインターネット。どのコンピュータとも通信ができ、どんなアプリケーション、webサイトとも通信ができる。
1989年、サンでの研究開発はエキサイティングだった。色々な分野の学者が集まり、新しいものに取り組む熱意がすごい中で、リアルタイムOSの開発をした。
当初6か月間はビジター研究者として携わっていたが、研究開発に取り組むなかで、これは必要なものだ、との実感を持つに至った。
というのも、人によって使っているプログラム、コンピュータ、言語が異なり、ドキュメンテーションする時に必要な情報をどうやって見つけたらよいか、途方にくれるような状況だったため。
そんな時、上司であるマイク・センドールが背中を押してくれた。ハイパーテキストシステムWWWは面白いからぜひやってみるようにと勧めてくれた。自分としても、ハイパーテキストシステムは面白いと思っていたが、マイクが勧めてくれたのは大きかった。
もし面白いと思うテーマがあったなら、ぜひやってみるように後押ししてほしい。WWWはそのようにしてできたのだから。
WWW開発プロジェクトは、分散型のプロジェクトであるとも言えた。インターネットはクリエイティブなオープンスペースで、色々な人が自由に色々な情報を載せていた。
それがあるべき姿だが、今ではそうではなくなっている。
今だいたいwebを使っている人は、人口の50%。この28年を振り返ると色々なことがあった。webは少数派のものから多数派のものになった。
現在、webって何かと問えば、googleやfacebookなどと回答する人が多いかもしれない。
しかし、googleも中央化されたDBを持っているし、facebookも、twitterも、
集中であって、分散ではない。例えば、facebookから、linkedinのフレンドにアクセスはできない。それはインターネットの思想とは異なるものである。
webは誰でも自由に振舞えることがエキサイティングだったのだが、現在はそうではなくなっている。
これは、昔の大きなメインフレームで処理していた時代に似てきていると言える。蛸壺になってきている。それぞれのサービスやシステムの中にデータが格納されているのだから。
もし、あなたがコンピュータサイエンスを勉強している学生なら、こういう環境をより上位のレイヤーでどう活用していくかを考えてほしい。SNSではなく、別のオルタナティブな形でやれないか等。MITでもそのような研究をしている。サブスクリプションベースモデルなど。自分たちの持っているデータをできるだけ活用し、向こうのデータも活用することを考えたい。
昔はデータをFDに入れればどこにでも持っていけた。FDを持っている自分が、データをコントロールできた。その時代をもう一度取り戻すことができないか、それを考えることは面白いと考えている。
◆インターネットの現状と今後危惧される事項について◆
国や政府がインターネットをコントロールする動きもある。イギリスでは、webのトランザクションすべてを国が記録し確認する権利を持つことになった。
例えば癌について検索したということを、誰かに見られて、だからあなたには保険を適用できないと断られる、といったような状況を危惧しなければならない。プライバシーの問題が変わってきている。
また多くの人が言っているように、個人情報の悪用によるマネタイズも危惧される。例えば、facebookが個人情報を活用して金儲けしているんじゃないか、といった話である。
「ネット・ニュートラリティ」についても、注意してみていかなければならない。
2年前にも講演で話したことだが、例えばツイッターはニュートラルなメディアではない。リツイート機能があるため。
リツイートは、アイデアの拡散がもともとの発想だった。アイデアをネットワーク上で拡散するために作られた機能だった。
しかし、ポジティブなアイデア拡散の10倍ものネガティブリツイートが行なわれている。それは面白い現象とも言える。
(このことから読み取れる示唆とアドバイスとしては、)新しいSNSを立ち上げようとするのであれば、ノードは人であることを認識して、相互作用をマシンとマシンではなく、人と人のつながりと考えるべきである。
例えば差別的な悪意のあるコメントの方が拡散しやすいとか。そのような懸念をもっと汲んで、ツイッターも、ネットワーク上でどう情報が拡散しているのかを踏まえて再設計などを考えるべきではないかと思う。
米選挙戦の時に、フェイクニュースも問題になっていた。どういう風にフェイクニュースが拡散しているのかに留意し、たとえば毎回IDを変えられないようにして、既存のレピュテーションベースのツールも活用してレピュテーション機能で牽制するなどの対策も考えられる。
また、googleからの広告収入を見越して、自分のサイトクリックをさせようとする人もいる。人類のために読んでもらいたい・助けたいというのではなく、ただ単にクリックをさせたい場合も多い。つまり、全く商業的な目的によって動いているのが現状。google adやfacebookの広告を使うのが、とても簡単なお金儲けの方法なので、盛んに活用されるようになった。
トランプの選挙戦では、人々を32のグループに分けてターゲッティングが行われたとのこと。どんな関心を持っており、誰に怒りを持っているのか。それぞれのグループに対する有効な情報を送ってクリックさせる。
全体像が見えていないままに、ターゲット広告が最も盛んに活用されていること、それが懸念事項である。
心理学と経済の関係を踏まえた安定性が、様々な分野で研究されている。スピード重視ではダメ。どんな情報が使えるのかを考えること。
今ではなんでもwikipediaに乗っていて、情報があふれているが、アイデアの普及をさせるシステム、方法、そして人に関わることについて、しっかり考えてもらいたい。
テクノロジーの進化が人類にとってどんな意味を持っているのかをぜひ考えてほしい。
◆Q. 若い人たちへのメッセージは?◆
boundary(境界)を越えていくこと。自身の専門分野を超えて、いろいろなところを訪問して、いろいろなものを見て、新しい自分なりの3脚や、4本目の脚を作ること。自ら新しい世界を作り出し、そこに飛び込んでもらいたい。例えば、音楽、美術などもサイエンスにつながってくる。今ある枠組みからブレイクして、出来ることが何かを考えてみてほしい。