京都に用事があったので、ついでに少し足を伸ばして、滋賀県高島市にある針江集落の「針江生水の郷(しょうずのさと)」を見学してきました。
針江集落は、JR京都駅から湖西線に約45分乗り、新旭駅から徒歩15分の場所にあります。
かばた(川端)とは、この地域の水利用システムや、各家庭に設置された湧き水を取水する池そのものを指す言葉です。
(集落の生活の一部にある、かばた)
各家庭では、鉄管を地下20数メートルくらいの場所に挿して、生水(しょうず)とよばれる湧き水を上げ、水を池のように貯めて活用しています。
水は約7割が比良山系の伏流水で、3割が安曇川(あどがわ)の上流から流れてきているとのこと。
生水は家の中にも引き込まれていて、この地域の家の中には湧き水の蛇口と水道の蛇口と二つあるそうです。
昔はかばたが台所がわりでした。家の中にあるのは内かばた、外にあるのは外かばた、と呼ばれるそうです。
かばたは2段階になっており、飲用や野菜や豆腐などを冷やす、冷蔵庫として使う壺池(つぼいけ)にまずは溜まり、溢れた水が端池(はたいけ)に流れ込みます。
端池ではだいたい鯉やフナ、ニジマスやイワナ、金魚などを飼っています。
鯉は昔は真鯉を飼っておいて、何か節目の際に食用に供したりしたそうですが、今は自宅で鯉を下ろす機会も減り、見学者が増えたこともあり、飼われている魚は観賞用が多いようです。
端池からさらに溢れた水は、道路沿いに水が流れている水路に注ぎ込みます。
水路の水は、針江大川を通じて琵琶湖へ流れていくわけです。
(中央の柵で外の水路と繋がっています)
かばたによっては、外の水路と繋がって混じっている端池もあるし、湧き水だけの綺麗な端池もあります。
(外と繋がっていない綺麗なかばた)
ただ、湧き水だけの端池は水中に十分な酸素がないため、魚を飼うために酸素発生器を設置し、水中に酸素を送り込んで飼っていました。
鯉には残飯をやると何でも綺麗に食べてしまうとの事。
油物などは水が濁るから入れられないのかと思いきや、案内してくれた地元の方いわく、カレーもシチューも何でもやってOKで、実は鯉、カレーが大好きらしい。
実は、この水利用システムは、魚を飼って、魚の排出物を有機肥料として水耕栽培で植物を育てるアクアポニックに似ているかもしれないと思い見にきてみました。
実際に見てみて、水という資源を有効活用し、循環を形成しているエコシステムだとと感じました。
植物こそ育てていないけれど、水路には白い花をつける梅花藻や、花の咲かないセキショウモ、クレソンなどが自生しています。
(セキショウモが生い茂る水路)
(セキショウモと梅花藻)
(↑こちらは井戸のようなかばた跡にクレソンが自生しているところ)
春には琵琶湖からニゴイが産卵のために上がってきて、夏には鮎ものぼってくるとのこと。
豊富で綺麗な水を活用して食用の魚を飼い、残飯を餌として与えてゴミを減らしつつ鯉をそだてる。
かばたや水路の水は、温度が年間通じて14度程度で一定だそうです。
そのため、冬は凍らない飲み水として、夏は天然の冷蔵庫としても活用されます。
ただ、一方で、上水道や安定した電気網や近代的な住居の発達によって、かばたの利用率は低くなっていそうだな、と感じました。少し寂しいことです。
今では、家庭のかばたの用途は、観賞用の魚を飼うのと、野菜や花を冷やすのくらい。
飲み水は、お父さんお母さんの世代から下は水道が一般的。
おじいさんやおばあさんの世代は、かばたの水が健康の秘訣と、毎日欠かさず飲んでいる方もいるそうです。
珍しく、かばたを今でも台所として使っている、お寺さんのかばたを見せていただきました。
(お寺の「今も使われている」かばた)
透明なプレハブ板で囲って温室のようになった一角には、山菜を浸けてあったり、たくあんの漬物壺が置かれていたり、仏花がつけてあったりして、生活感豊かな様に、思わず笑顔がこぼれてしまいます。
集落は、昔は今ほど整然とはしていなかったそうです。かばたも、いわば家庭内の作業場であり、他人に見せるような場所ではなかったため、生水の郷として見学者を受け入れることに対しては反対意見も多かったとか
しかしその状況も、見学者の増加や、マスコミなどでも取り上げられることによって、少しずつ変わってきたそうです。住民が外の目を意識するようになり、また、固有の文化や生活習慣を誇るべきものとして再認識し、率先してまちの外観整備などに取り組むようになったとか。
家いえの壁には杉の焼板が使われています。虫がつかず、丈夫で長持ちするよう、杉の木を焼いた黒っぽい板を焼板といい、それを建物の壁板に使っているのです。
(杉の焼板 アップ)
この地区ではかつて織物産業が盛んで、今でも工場だった建物がたくさん残っています。工場には横板の焼板が使われ、家屋には縦板の焼板が使われたそうです。
古くなった建物の建て替えをする際、最近の建材ではなく、この焼板杉を使う家がとても多いということです。そのため、一見古いまちなみのように見えるのですが、実はこちらもあちらも最近建替えたものです、という家が何軒もありました。
中には工場だった建物を家屋に建替えているところもあり、ここは建替えの時に横板から縦板に変わったんですよ、といったお話もありました。
(工場だった建物は横板)
集落には「おさかな旭」という一軒の魚加工・販売店があります。鮒寿しや、ごりという川魚の醤油煮、海老豆などを自家製で作って売っているのですが、案内人の方と店に入っていくと店の人がいません。
しかし、案内人のが、「いない時はね、勝手にこうして味見させていただいて、買いたいものがあればお金を手提げ金庫に入れて、勝手に商品を持って帰ればいいのよー」と言います。自ら率先して、「これが美味しいのよー」とか言いながら、海老豆を匙で手に掬い取り味見。「ほら、食べてみて」と勧めてくれます。
せっかくなので、鮒寿しとゴリ醤油煮を購入しました。代金を案内人の方に渡すと、「ここに入れとけばいいのよー」と、店の手提げ金庫にお金を収めます。
店のビニール袋に案内人の方が詰めてくれた商品を持って、二人で店を後にしました。こういう感じはいいですね。
集落にある豆腐屋さんにも立ち寄ったのですが、もっと案内する人数が多い時は、かばたにつけてある豆腐を案内人の方が自ら購入して、味見させてくれるそうです。今回は私一人だけだったので、豆腐一丁は多過ぎて、ありつくことはできませんでした。
(豆腐やさんの外かばた)
針江集落には、170軒のお宅と、110か所のかばたがあるそうです。その中で育まれる、綺麗な水と共に生きる暮らしを垣間見ることができました。
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かばた見学には事前予約が必要です。
かばたは各家庭の持ち物なので、勝手に集落を回って見学することはできず、必ずツアーに申し込みをし、ガイド案内の元で見て回らなければなりません。
かばたを回って見せていただくコースは、所用1時間。(他にもコースがあります)
予約した時間に集合し、地元の方がボランティアガイドとして案内してくださいます。今回は私一人だけでしたが、1対1で、1時間たっぷりと案内していただきました。
費用は環境協力金として1000円が必要です。
見学の申込など、詳しくはこちらから。
見学のご案内 | 針江 生水の郷 公式ウェブサイト
http://harie-syozu.jp/guide
針江公民館の一角にある案内所で購入した、こちらの本もとても素晴らしい内容でした。
行く前に読んでも、行ってから読んでも、理解が深まり、一読の価値ありです。
書籍「台所を川は流れる-地下水脈の上に立つ針江集落」 2010/8/2 小坂育子著
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